< 短歌を三首抜粋 >
花の名を君の記憶に植えつけて未来の君への呪いにしたい
満月を見る習慣が抜けなくて一生取れぬ刺青みたい
水のない花瓶にさして眺めおり君が残せし花の死体を
何かの映画で聞いたその言葉に、当時の私は「いや、永遠に続く恋愛感情だってあるよ!」と思っていた。いや、今でも少し思っている。
けれどその映画をみてから十数年、人生で一番好きだった人との恋愛も、やはり例外なく終わりを迎えた。
忘れることが無性に怖い私は日記をつける習慣があって、だから彼の好きな食べ物も、誕生日も、もらったプレゼントもきっとずっと覚えている。けれどどんなにその日にあったことや心のうちを書いても、結局全てを記録することはできなくて、日記に蓄積されたものは編集された日々のかけらに過ぎない。好きだった彼の匂いも、しっくりこなかった彼の手も、私より高かった体温も何ひとつ残せなかった。
別れの日の日記は一行しか書かなかった。その日に思ったことはもう思い出せないしあの日に置き去りにしたくて書かなかったけれど、もうこの世界には存在しない彼のことを思うと、少しでも多く書き残しておけばよかったな、と少し後悔してしまう。