単行本版をリライトした、文庫版(完全版)『すな子へ』です。
某月某日
街で初めて珈琲人形を見つけたのは、確かにこの日であったと記憶している。高層の夢を敷石にして出来ている駅のすじ向かいの両替屋はウィンドウに小洒落たものを飾るのが好みらしく、そのなかに顰めっ面をして飾られていた、それが確か、珈琲人形であった。
「珈琲人形」という謎の存在を縦糸に、すな子という女性を横糸にして独白の続く前半部と、古書店で働く女性「すな子」が恋した贋作春画絵師との物語の顛末「音夢-NeMu-」という後半部。
「すな子」とは結局なんだったのか? 誰だったのか? 彼女は如何様に生きていたのか? 彼女は何を想っていたのか? 生きていたのか。誰を愛していたのか?
ときは抄果の十三年。開国東京に置き去りにされた世界で繰り広げられる「すな子」にまつわる美の物語。
装画は冨田風子、装丁は荒川浩介が担当。