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はなり亭で会いましょう

  • C-32 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • はなりていであいましょう
  • 寝覚の朔
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 124ページ
  • 700円
  • 2020/01/19(日)発行
  • 日本酒好きなこじらせ女子の重森絢子は、お気に入りの居酒屋「はなり亭」で心癒される一人飲みを楽しむ。
    一人暮らしを始めた大学生の渡辺涼花は、ひょんなことから「はなり亭」でアルバイトを始め、日本酒に興味を持つことになる。
    世代の違う二人の女性視点で語られる、ほっこり飲み屋小説。

    お試しバイトとお客様

    「もしかして、アルバイト探してはります? ちょうどよかった、今日は人手が足りんし、お試しってことで入ってくれへん?」
     「ええっ!」
      驚き、戸惑う涼花のことなどお構いなしに、店員の男性はにこやかに話を進め、涼花の手を引いて店の中へ案内した。
    「可愛いお嬢さんにこんな制服で悪いねんけど、とりあえず着替えて。あ、こっちが更衣室になってるし、内側から鍵もかけられるさかい安心して」
     手渡されたのは、店員の男性が来ているのと同じような作務衣と前掛け。店内の様子を見ると、今のところこの男性の他に店の従業員らしき人物は見当たらない。ということは、彼はここの店主なのだろうか? こういったチェーンの居酒屋でない、個人経営の飲み屋の主といえば、口数少なく近寄りがたい頑固オヤジのイメージだった。しかし、目の前に居る彼はもっと気さくで柔らかな雰囲気を持ち、涼花が見たところ、オヤジというほどの年齢でもないように見受けられる。そして彼があまりにも、アルバイトが来てくれたことを喜んでいるようなので、否定するタイミングを失ってしまった。

    深呼吸と溜息

     ちょうどよく、頼んだお酒がグラスに注がれて運ばれてきた。店に入る前にもそうしたように、改めて息を大きく吸って吐き、グラスに注がれた澤屋まつもとを口に運ぶ。爽やかな味わいが心に溜まる昏いものを浄化してくれるような錯覚を覚え、沈みそうになっていた気持ちが少し上向いた。
     続いて、一人分サイズに調整された自家製豆腐の冷ややっこと、ポテトサラダがやってくる。はなり亭の豆腐は毎日お店で御厨が手作りしているらしく、スーパーなどで買えるものとは触感も味わいも違う。冷ややっこと言えば醤油やめんつゆ、ポン酢などで食べることが多いが、ここではシンプルに天然塩が添えられている。もちろんカウンターやテーブルには備え付けの調味料があるので、醤油が欲しい人は好みでかければよいが、絢子はこの店で冷ややっこを食べるときは塩を付けることにしている。その方がより、豆腐の繊細な味が活きるように感じるのだ。また、ポテトサラダは居酒屋ごとに味付けが違うものだが、はなり亭のポテトサラダには味のアクセントに柚子胡椒が使われており、爽やかな辛みが味を引き締めている。

    淡い気持ちと憧れの人

     はなり亭は種類豊富というほどではないが、地酒も取り揃えている。常時切らさずに置いている定番銘柄のほか、その時々に季節感のあるものや、話題性のある銘柄を置くこともあり、シフトに入る度に頭に入れておかなければならない。まして涼花は未成年であることから、その味を知ることもなく、お客さんにおすすめなどを聞かれて困ることもある。しかしはなり亭でアルバイトをするようになってから、日本酒について興味を持つようになり、涼花は次の誕生日を迎えて二十歳になったら日本酒を飲んでみたいなと思っていた。

    巡る季節とささやかな何か

    「……都合が合えば、そうさせてもらいます」

     何とかその一言を口にし、絢子はおもむろにビールを飲みほした。先ほどマユちゃんが注いでくれたそれは、ほとんど一気飲みのような形で、絢子の中に消えていく。正直言って美味しくない。まず温度が適切でないし、グラスへの注ぎ方も素人のそれだ。これではビールの美味しさが引き出せるはずもない。しかし、それでも強引に流し込まねば、とても今の状況をやり過ごせる気がしない。

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