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九十九ふくふく堂 おいしい日本茶は癒しの味

  • B-14 (小説|エンタメ・大衆小説)
  • つくもふくふくどう おいしいにほんちゃはいやしのあじ
  • 服部匠
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 40ページ
  • 300円
  • 2019/06/16(日)発行
  • バーのような日本茶カフェで、心のくすぶりを癒しませんか?

    ※タヌキ顔の優男付き


    会社の後輩と上手く行かないストレスを抱えたサラリーマン・森本が夜中に訪れたのは、狸のような優男の店員・福富が営む、日本茶カフェ「九十九ふくふく堂」。 おいしいお茶とおにぎりに癒やされるが、気がついたらなぜか、時間が逆戻りした世界に飛ばされてしまう。そこで彼が知ったのは、後輩の「心の声」だった――。
    日常で起こるささいな「心のくすぶり」を抱えた人に寄り添う、不思議で優しい現代ファンタジー。
     
    ※ウェブ小説投稿サイト「セルバンテス」「カクヨム」「pixiv」に本文無料公開中
    ※同人誌版には付録として書き下ろしエピソード「氷出し茶と解ける心」(A5|12p|コピー本)が付きます。表紙に森村直也さん(HPJ製作工房)のカットを使用/語句の正誤お知らせなどと初期案と初期案冒頭を入れたネタバレコラムの折本もおまけでついています

    <冒頭試し読み>
     黄金の急須が、たおやかではあるが、するどい手つきで振るわれる。その様子はまるで、打ち出の小槌のようだった。
     しんと静まりかえった店内に、ぽちゃん、と小さなしずくが湯呑に落ちる音だけが響く。
    「最後の一滴まで注ぎきるのが、おいしいお茶になる秘訣です」
     急須をふきんで優しくなでながら、カウンターの中の男性は言った。
     狸のようなふくふくとした丸い顔と、小柄でずんぐりむっくりした体型。
     それでいて、謎の安心感を覚える彼――日本茶カフェ「九十九《つくも》ふくふく堂」店長・福富《ふくとみ》は、惚けた顔で一連の作業を眺めていた俺に向かって、お盆を差し出した。
    「お待たせいたしました。日替わりのお茶とおにぎりです。お茶は静岡の本山《ほんやま》茶です」
     お盆の上には、小さな湯呑と、湯呑とおそろいのスープカップのような容器。おにぎりがのった皿。そして――黄金の急須。
     湯呑には、綺麗な緑色をした日本茶。そして、おにぎりの海苔の香りに、このところまともな食事を摂っていないこともあり、食欲が刺激される。
     そっと湯呑を手に取れば、ほんのりと温かい。
    「ごゆっくりどうぞ」
     お決まりの文句のはずなのに。福富の言葉には、湯呑と同じような温かさが感じられた。

     :::

    「……ツイてない」
     夏が間近になり、雨に翻弄される六月中旬の夜。会社からの帰り、突然の雨に降られ、ずぶ濡れになった挙句、目の前で最終バスに乗り遅れた。
     中部地方の片隅にあるこの町は、少し歩けば駅に着く都心部とは大違いだ。これから最低でも三十分かけて、水を吸って重たくなったスーツや革靴と共に徒歩で帰宅しなければならない事実は、地味にダメージが大きい。
    「なにも今日じゃなくたっていいのに」
     苛立ちを隠せず、だれもいない道に遠慮なく吐き捨てる。
     ここまで苛立っているのは、雨に降られバスを逃しただけが原因ではなかった。
     小さなIT系企業に勤めて三年。この春、今まで下っ端だった自分に、初めて後輩ができた。ようやっと先輩風を吹かせられると意気込んでいたが、俺の下にきたのは、なんともつかみ所のない奴だった。
     話を聞いているのか曖昧な返事。いつも眠たげな目。声も小さいから、なにを言っているのかいまいち聞き取れない。仕事も確認が多いくせに、手順も見ててイライラするような遅さ。
     なによりむかつくのは、新社会人にあるはずのしおらしさや、謙虚さがないことだ。
     こっちは先輩としていろいろ教えてやってるというのに。自分で考えることくらいしろよ!
     そんな鬱憤が溜まっていたのが原因だった。今日ついに、ある業務のことで雰囲気が悪くなり、険悪なムードで仕事を終えてしまった。
    「ああーっ、後輩の教育とバックレたクソ上司の炎上案件、どっちもやれってかー!?」
     蝉の声が鳴くだけの夜に、再度叫ぶ。どうせこの辺りは川沿いな上、民家とは距離のある郊外の町なのだから問題ないだろう、多分。
     そう。頭を悩ませているのは後輩だけではない。
     四月早々、いろいろとトラブルを起こした挙げ句、逃げるように退職した元上司の尻ぬぐいを、俺がすることになったのだ。
     元々馬が合わない上司だったこともあって、まったく気が進まない。無茶ばかりしていた元上司と同じことを求められ、毎日が残業だ。そのくせ、客も営業もアラを見つけては言いたい放題。正直、いっぱいいっぱいだ。
     時計を見ればすでに二十三時を過ぎている。コンビニで飯を、と考えても、胃がそれはやめてくれとキリキリ叫んでいた。さすがに毎日コンビニ弁当とカップラーメン、チューハイのセットは胃が痛い。かといって自炊する気力も材料もない。
     この辺りは大きな道路や駅からも離れている工業・住宅地帯。つまるところ、夜中に営業している飲食店もない。
     雨で蒸し蒸しと気持ち悪く、気分は最悪。
     そのときだった。
     暗い視界の左側に、ふ、と灯りが見えた。温かな電灯の光がやたら恋しく感じて、いつのまにか足がそちらへ向いていた。あわよくば飲食店だったらいいな、と期待して近づくと――そこには黒く、四角い建物があった。
     灯りの下には看板があり「日本茶カフェ 九十九ふくふく堂」と書いてある。
     カフェ、という言葉に、一気にテンションが上がる。カフェなら食事があるだろう。この際、日本茶であることは完全に無視をした。
     期待を抱いて、俺は吸い込まれるように重たい扉を開いた。


    「お茶と、おにぎり……だけ?」
     カウンターに座り、メニューを見た瞬間、俺の期待は一瞬にして消え去った。
    「はい。お食事のメニューはその一点のみです」 
     追い打ちのように落とされた言葉。それは、お冷とおしぼりをカウンターから出してくれた男性店員からだった。
     年の頃は二十代後半。清潔感あふれる黒髪のショートヘアー。ちょっと太くて丸い眉に優しく垂れ下がった目と口元、ふくよかな顔と体型を包む白のワイシャツと深緑のエプロン。よく言えば柔和でお人好し、悪く言えばすぐにだまされそうな愚鈍さが感じられる風貌だ。
    そう、まるで狸のような。
     人のよさそうな笑顔を浮かべる彼の表情が、逆に俺の感情を逆なでした。エプロンに付けられた名札には「福富《ふくとみ》」とある。



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