シリーズ4作目。
ラボ生まれの主人公が、愛を知って平和な日常を噛み締める話など、4話収録の休憩モード本。
気軽にキャラと世界観を楽しみたい方へ。・TREATMENT
主人公がトラウマを払拭して、愛のカタチを知っていく話。
"ある理由から、人間に「さわる=痛み」だった優人は、トラウマ克服のため元担当医に接触治療を依頼する。治療を通じて過去を遡るうちに、今まで仲間たちから向けられてきた感情の意味に気づき、自分の心の内を明かしていく。主人公の愛の芽生えを描く、心温まる物語。”
#クールな女 #甘える男、#愛の芽生え
・catnap
主人公、黒澤、高見、拓で、プランク勝負をしながら街の現状を語る話。
#心地よい日常 #三十代ライフ# 気心知れた仲間たち
・Sparring
主人公と黒澤がジムでスパーリング対決をし、親睦が深まるかもしれない話。
#互いを知る #次につながる #健康的
・by the way
主人公と日向洋子(30代半ば)が短編集『ハードボイルドセレナーデ』での1シーンを振り返る話
あの時なんて言った? #腐れ縁
・登場人物
伊野田…主人公。普通の研究所員として働いていることに喜び感じてる。趣味はパズル、たまにコーヒー。
笠原拓…伊野田の相棒。チャラい。何かしようとしている。
黒澤さん…筋トレとコーヒーが好き。
高見佳奈…明るく朗らかでしたたか。
琴平…伊野田の監視者。親代わり。
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作:久納一湖、イラスト:ハルサカ様
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【抜粋】
「後藤晶先生との食事デートは? 行ったんだろ? 後押しした俺には、報告を聞く義務がある」
「何言ってんだかわからねぇけど、……。きちんとこなせたはずだ。ミッション完了という感じがして気分がいい。何話したのか覚えてねぇし、帰りにコーヒー貰っちまったけど」
「ほぉ~? ミッションだと? 優人くん? きみは一体何を言っているのかね?」
わざと琴平の物言いに寄せた口調で、拓が顔を近づけてくる。
「完了させてどうするんだよ。次の予定は?」
「次?」
案の定、不思議そうな顔を向けた優人を見て、拓は「アァ~」と大げさに頭を抱えた。
「これだからおまえは! 連絡先、交換したんだろ」
「ああ、見ろ」優人は得意げに端末を取り出して見せた。
「これで満足してどうするんだよ。早く連絡して、次のデートに誘うんだ」
「えぇ? そういうもんなのか? 次って言ってもな……」
考え込むそぶりを見せる優人に、拓は「悩む気持ちもわかるぜ?」と言って腕を回そうとしたが、優人はわずかに距離を取った。ほぼ無意識だろう。拓はすかさず指摘した。
「それだよ、それ! おまえは人に触れるようになったのに、未だに避けてるよな! 俺とのスキンシップでさえも!」
「いやぁ……、日常的に人に触るのって、普通か? あんまりしないだろ」
「まー、一理ある。俺のスキンシップが過剰かもしれないのは、認める。でもおまえさんの場合、〝触れる=気持ちいい〟って、その頭に認識させておく必要があるみたいだな」
「認識って言ってもな。触れるのが大丈夫になっただけ結果ヨシなんだが」
「甘いねぇ。その先が気持ちいいってのに」
「んなもん、おれにわかるわけないだろ。触っても痛いか不快しかなかったのに」
「そりゃ仕方ねーけどよ。決めつけはイカン! 俺の言うこと信じろって」
拓はそう言って両手を差し出してくる。優人は呆れた顔でその手を叩いた。そしてわざと、ふいっとそっぽを向く。
「動物園のふれあい広場じゃないんだぞ? タッチしておさわりして終了じゃないんだ。人間同士の触れ合いを覚えろ。三十過ぎた野郎に言うことでもないが、せめて、手を繋ぎたいって欲求くらい持ってくれよ」
「手なんて繋いだら歩きづらくない?」
コーヒーを啜って、優人は否定した。すかさず拓が身を乗り出してくる。
「考えてみろ? 手を握って温もり感じたり、アレコレしたり。肌と肌が触れあって、深ぁ~い所まで浸透して、探り合って確かめ合って、分かり合う。そりゃ気持ちがいいもんだ」
「浸透? 型崩しの打撃と同じじゃねぇか。めっちゃ痛いじゃん」
「そっちの考えから離れろよ」
拓はそう言って自分の膝を打った。
「俺は、おまえに愛を説いてるの、愛!」
「愛?」
「俺はずーっと願っているわけだよ。お前が愛のあるセックスを経験できる日が来ることを、ずっと願っているわけだよ。それなのにミッション完了だと? 先に進まんか!」
「……そんなに言うなら、練習付き合えよ」
「え? おまえとやるの?」
「違う。そっちじゃなくて、触る方の練習」
「あ、セックスじゃなくて、接触練習な、アハハ。びびったぞ。そりゃ、俺は雑食だけどよ。生身のお前にベタベタ触るのは気が引けるからよ。だって万が一不快感が出てきたら、おまえ俺のこと嫌いになっちまうかもしれねえだろお?」
「そうだな。でも最適なのは拓だろ。エルリに言ったら叩かれそうだし。佳奈ちゃんは、いろんな意味でおかしなことになりそうだし」
「くろ……」
「馬鹿。おれが無理だ。想像させんなあり得ない」
優人は、黒澤の名前が出る前にぴしゃりと言葉を遮った。
「じゃあ、日向洋子は?」
「ヨーコ?」
優人は日向洋子の顔を浮かべた。殴り合いしかしてこなかったような相手だ。想像がつかず、首を傾げる。
「いやー、なんか違うだろ。お願いしたら考えてくれると思うが。付き合いも長いけど、ヨーコは腐れ縁。あいつに弱点さらすのは嫌だ」
全滅じゃねぇか。と拓は呆れたように笑う。さすがに彼の口からも、琴平と、その息子である忍の名前が出てこなかったことに、伊野田は少しだけ安心した。彼らなど論外である。すると、拓はポンと手を打った。
「やっぱよ、ここは後藤先生だろ! 医者に相談するのがいいと思うぜ。連絡してみろよ。ついでにコーヒーでも飲みに行けばいいじゃねえか。一石二鳥だ!」
「そうか、そうやって声かければいいのか。自然だ」
「うんうん、いいぞぉ。成長が見られてお兄ちゃんは嬉しい……!」
そうだ、と言いながら、拓はポケットの奥に手を突っ込んだ。そして何かを掴んで、ぱぁっと明るい顔を向ける。
「なんだそりゃ」
「安心安全に気持ちよくなるための、愛の風船、とでも言っておくか。我ながら夢のある言い方だなぁ。配慮がある」
「おまえ馬鹿じゃないのか。いつも持ち歩いんの? 怖いんだけど」
「お? いらねぇの? いざって時に無かったら、進むもんも進まないぜ?」
「いら……、いる」
拓はアハハ~、素直じゃん。と笑って優人の手の中にそれを押し込んだ。彼は複雑な気持ちでポケットに仕舞うと、端末を操作する。『体質のことで相談があるんですが、昼どうですか』とテキストを作成し、晶へ送信した。拓の帰り間際に返事が届き、翌日のランチタイムに会うことになった。
(TREATMENTより)
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