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花咲く頃に君想う

  • 3F 第三展示場 | く-22 (小説|恋愛)
  • はなさくころにきみおうもう
  • 寝覚の朔
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 294ページ
  • 1,000円
  • 2025/9/14(日)発行
  • 天宮桜子と村瀬花菜。
    春の花を名前に持つ2人は中学で出会い、親友となる。
    けれど、互いに親友以上の好意を持っていて……? 関係を壊さないため、互いに思いを隠し続けたまま、長い時間が過ぎていく。

    両片想いな2人の結末は――。
    百合といえば百合。だけど、百合じゃないかもしれない。
    繊細で複雑な心の動きを描いた恋愛小説。

    誰より大切なあなたの門出

     幸せな二人を祝うに相応しい晴天を恨めしく思いながら、私は式場へと向かう。頼まれたスピーチの原稿は頭にたたき込み、服装や祝儀は完璧に用意していた。
     今日は、中学時代からの親友・花菜の結婚式と披露宴だ。ハレの日を祝福したいと思う反面、私の足取りは重い。できることなら、花菜の結婚式や披露宴などには参加したくない気持ちが今もある。
     花菜の幸せを素直に願えない、心からの祝福ができない私は、人間として何か欠けているんじゃないか?
     こんな私は花菜の親友として、相応しくないんじゃないか?
     そう思うたび、私の心には暗いものが広がる。
     私と花菜は私立の中高一貫校で出会い、仲良くなった。中高生時代は学校で同じ時間を過ごし、別々の大学に進学してからも交流を続けている。親友と言って差し支えない関係であり、きっと二人の友情は今後も続くだろう。
     だけど、花菜はこれから夫となる人・五嶋柊介の姓を名乗り、私のよく知る「村瀬花菜」ではなくなる。「五嶋花菜」として、柊介の妻として、新しい家庭を築いていくのだ。(挙式前に婚姻届を提出したという話だから、既に彼女が五嶋花菜になっているのは知っているけれど)
     その現実を思うたび、私の心はかき乱される。花菜が、私の知る花菜ではなくなってしまう不安。大切な花菜を私から遠いところへ連れ去る柊介の存在に、腹立たしさのような気持ちさえ抱いてしまう。
     そんなことを考えているうちに、式場に到着していた。

     受付を済ませた私は、花菜の待つ控え室へ向かう。「親友の桜子には、式の前にドレス姿を披露したいから、是非控え室に来て欲しい」と、招待されたときから言われていた。親族でもないのに控え室に入れてもらうなんてと、一度は断ったけれど、私を気に入っているらしい花菜の母親からも是非にと言われ、お言葉に甘えることとなった。
     控え室へと向かう廊下の窓からは、早咲きの桜が見える。少し視線を移すと、花壇に植えられた花々の中に菜の花もあった。花菜と初めて出会った入学式の日に見た、桜と菜の花の光景は今も心に焼き付いている。
     控え室についた途端、私は花菜の両親から熱烈な歓迎を受けた。とくに花菜の母親は、まるで自分が結婚するような浮かれぶりだった。
     正直なところ、私は花菜の母親をあまり良く思っていない。とくに問題のある人物ではないし、花菜の家に行って遊んだり、泊まらせてもらったりしたときはお世話になったこともあって、いろいろ良くしてもらった相手だ。だから、嫌うほどの人物ではないけれど、花菜の母親は娘をあまり評価していない様子で、私はそれを見るたびに不愉快だった。
    「うちの子は勉強もスポーツも大したことないけれど、でも、桜子ちゃんみたいな友だちができて嬉しいわ」
    「パッとしない我が子だけど、桜子ちゃんみたいな友だちがいて、幸せよね」
    「花菜はあんな子だけど、桜子ちゃん、これからも花菜をよろしくね」
     この母親は、勉強ができるとかスポーツが得意とか、有名な学校に進学するとか……そういうことでしか我が子を評価できないらしい。私を何かと褒めちぎり、決まって花菜に劣った存在であるかのような評価を付け加える。
     私からすれば、花菜は唯一無二の存在だ。彼女の人懐っこくておおらかな性格にずっと支えられてきたし、誰にでもやわらかな態度で接することができて友だちも多い花菜は素晴らしい人間だと思っている。
     花菜が母親から不当な評価をされているのは悔しいけれど、よその家庭の事情である以上、私には何もできない。なにより、花菜自身が気に留めているようでもなかったから、これまで意見することもなかったけれど……娘のハレの日だというのに、この母親は相変わらずだった。

    これが私の選択

     新婚旅行先のホテルで目覚めた私は、何をするでもなくベッドの中で結婚式と披露宴のことを振り返る。まだ起き出して身支度をするには早い時間だから、もの思いに耽っていてもいいだろう。
     結婚式前に、自分のウエディングドレス姿を桜子に披露できてよかった。式でも披露宴でも、桜子にウエディングドレス姿を見てもらう時間はたっぷりあっただろう。でも、ほかの招待客も集まる場では、一対一で桜子と向き合えるわけじゃない。この日のためにとダイエットに励んだし、ブライダルエステに行った甲斐もあって、自分史上最高の見た目になれていたんじゃないかな? 事実、桜子からは「キレイ」と言ってもらえて、それは柊介から褒められるよりもずっと嬉しかった。
     もし、桜子が結婚するなら、どんなウエディングドレスが似合うだろう?
     スラッとして、スタイルがよくて、美しい顔立ちの桜子なら、私には絶対着こなせないマーメイドラインのドレスも似合いそう。お色直しには、ありふれたパステルカラーのドレスではなく、大胆な色使いやデザインのものだって様になるだろう。
     結婚式の準備をするなかで、私の頭にはずっと「桜子の結婚式なら?」「桜子が着る花嫁衣装なら?」という問いが浮かんでいた。
     でも、桜子のウエディングドレス姿を見る機会は訪れない気がする。
     というか、桜子の伴侶に相応しい相手がこの世に存在するのか疑問だ。半端な相手と結婚する桜子なんて想像できないし、桜子と比べればほとんどの人間は半端者に思える。
     披露宴で桜子は素敵なスピーチを贈ってくれた。それはとても嬉しいことだけど……私は、どこか寂しさのような感情を覚える。桜子とは今後、以前のような付き合いはできないはずだ。でもそれは、私が選んだ道なのだから仕方がない。
     国内トップレベルの国立大学に進み、法曹界に入るべく邁進する桜子はまぶしい。私にないものをすべて持っているように感じられ、理想や憧れが詰まった女性であり、心をときめかせてくれる王子様でもある。中学、高校、大学と、それなりに異性との交際歴があるけれど、誰と付き合っても桜子に感じるほどのときめきはなかった。
     ……もちろん、そこまで深い想いを彼女に対して抱(いだ)いているとは、絶対に打ち明けられないけど。そんなことを伝えれば、決定的な溝が生まれるかもしれないし、桜子から避けられてしまうかもしれない。それだけは何としてでも避けたい。
     だから桜子とは、ずっと大切な親友同士であり続ける道を選ぶ。これから柊介との家庭を築き、子どもを産み育てていく関係上、桜子とは疎遠になっていくだろう。それでも、親友という関係でつながり続けられれば十分だと、私は自分に言い聞かせる。

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