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閑窓vol.7 遥空を仰いで

  • あ-34 (小説|アンソロジー)
  • かんそうヴぉりゅーむせぶん ようくうをあおいで
  • 芥川心之介 化野夕陽 板垣真任 衿さやか 熾野 優 瀬戸千歳 中川マルカ 丸屋トンボ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 174ページ
  • 800円
  • 2024/12/1(日)発行
  • 「運河の先にある架空の空港」

    全8編収録


    杞憂を掬う/熾野優
    集合場所に指定されている時計台にいたのは、一度も話したことがない副担任の佐々木だった。

    お迎え芥川心之介
    迷いのない無邪気なステップ。白銀の光を照り返す六角柱のチャームが、少女の首元で揺れる。例えば上空から大荒れの海に何かの果物でも落としてやれば、海面でちょうど同じような揺れ方をするかもしれない。通路のど真ん中で、男はぼんやりと空想する。魚は果物を食べるのだろうか。硬い海水で味付けされた、甘じょっぱい果物を。

    バスツアー/丸屋トンボ
    会社の労使共済イベントは、瑞枝空港の立ち入り禁止エリアを回るバスツアーを選んだ。野球観戦のグループという選択肢もあったのだけど、僕は野球に興味がないし、なにより仲がいいわけでもない会社の先輩や同僚と息を合わせて、ホームランだのセーフだのアウトだのというタイミングで同じように歓声を上げなければいけないかと思うとぞっとした。

    孤独の封緘瀬戸千歳
    いま瑞枝に帰る機内でこの手紙を書いています。遥斗が旅先からポストカードを送ってたことを思い出して、おれもやってみたくなった。遥斗は自分宛に出してたな。帰ったあと旅先から届くのがおもろいんだって。延長線。旅行の延長線って呼んでた。だからおれもそうしようかと思ったけど、たぶん恥ずかしくて読み返さない気がするし、この手紙は遥斗に、いちいち漢字で書くのは画数多くてめんどうだしカタカナでもいいか? ハルト。気にしなさそうだもんな。カタカナにする。この手紙はハルトに向けて残すことにします。

    船でなく化野夕陽
    この世が十年後に滅びることと、百年後、千年後、あるいは何十億年後に滅びることが、同じであるはずはなかった。でも、生きている一人の人間にとっての〈この世〉は、その人が生きている間だけだ。その時間しか知り得ない。だから〈この世〉はその人が生きている時間だけだ。それだけだ。

    Passages/衿 さやか
    ライ麦のサンドウィッチというのは、どうしてこうもぼそぼそしているのですか。トマト入りのサンドウィッチは、パンが濡れてしまうから好きではないです。フレッシュなレタスも同じ理由で好きではないです。アボカドとチェダーチーズとハムの挟まったそれはビニール袋に包まれて、スコーンやソフトクッキーの陳列されたショウケースの下側にありました。でもひとつ、商品が売れた形跡があって、あなたが見たら顔をしかめたと思います。

    あり明月よ/中川マルカ
    あきらちゃんの運転で、瑞枝空港に着いた。立体駐車場をゆっくりとのぼる。隙間から差し込む九月おしまいの夕日がまぶしい。角を曲がるたびに、光と影とがぎゅっと濃くなり、やがてくる冬の夜明けをおもわせる。

    バゲッジクレーム/板垣真任
    新宿武蔵野館で映画を観て、ディスクユニオンでレコードを眺めて、紀伊國屋のビルで立ち読みし、あとはラーメンか回転寿司でも食べて西武新宿線で田無に帰ろうとぼくは考えていた。新宿の街をただ歩いていても、つまらないラーメン屋とつまらない回転寿司しか見つからないことは分かっていた。ぼくは田舎者ですから、おもしろい映画、おもしろい音楽、おもしろい本というのは、制服の肩にふけが散り始めたころからよくよく蓄えてきたものでしたが、新宿のような街を小腹すかせて歩いても、けっきょくはどこの街にもあるようなつまらない飲食店へと、安直に吸い込まれてしまうわけです。


    写 真:ヒロセミサキ
    挿 画:橋本ライドン
    装 幀:瀬戸千歳

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