駅のなかにあるカフェは、凹凸のある厚手のギフト用ボックスで出来ている。 駅自体はこの街で一番大きな建物だ。否、駅のなかに街が造られたのだろうか。
たぶん私たちは、本当に永いあいだ安らかに暮らしてゆけるし、終わりなんてものはこない。その証拠に、私はいつからこの家に住んでいるのか分からないし、自分が何歳なのかも知らないのだから。それが、この街に住まう者のルールだと、私はそう思っていた。
駅のなかの迷宮のような街のなかに住まい、死や別れ、日々の終わりを過ごすこと無く生きてきた住人たちのひとりの女性はある日、街の外に脱出を試み失敗した友人を喪う。
「この街の秘密が知りたい?」
酒場で出合った少年が蠱惑的に問う。この街でたったひとりだけ歌を歌える人間、陶子。
街の仕組みが綻び始めてゆく……この本は、何処へ? シュールなファンタジィの夢と目醒め。