「海洋(浅め)」をテーマにした短篇2篇を収録。
「海面のクラゲ」 (渦保)
宇宙のどこかにあるという水の星。海のあるこの星には資源豊かにあふれ、生命の魅力が輝いている。この世界では今までたくさんの人類が繁栄していった。様々な種類の生き物が長い時間の中で知性を目覚めさせ文明を生み出しては人類を自称していった。例えば、ある二本足の種族は道具を作ることに長け宇宙へ旅立ちこの星から去っていった。あるいは別の種族は甲殻に覆われ強い力を持っていたが争いにより滅びた。
たくさんの人類が繁栄する、その度に星は汚染され傷ついてきた。以前の人類が生まれた大地を自ら汚して、そして見捨てるように去ってからどれくらいの時間がたったのだろうか、また新たな人類がこの星では目覚めようとしている。前文明の影響かそれとも別の因果か、それは海中で産声を上げた。
前人類が垂れ流した汚染は地上の環境を変えてしまったが同じく、その汚染は海中にも垂れ流された。しかしそれは科学反応を起こし、クラゲというものに知性を目覚めさせた。そうしてクラゲたちは新たなこの星の人類として誕生したのであった。
「迎え火」(孤伏澤つたゐ)
バスは日に二本、そのバスで一時間揺られてようやく、一時間に一本だけ運行される電車の始発駅にたどり着ける、世界のはじまりみたいな場所で、私とりりはほとんど日をおなじくして生まれ、同じばばのところへ預けられ、小学生になり、中学生になった。
おさがりのような大きすぎる小学校には、児童は私とりりのほかは、四つうえの学年に双子の男の子がいるばかり。かつては四十人近くのこどもを収容していただろうこの教室には机はふたつしかない。放課後の校舎はがらんとしていてテレビでよく見る、こどもの数は少ないけれど底抜けに明るい笑い声が響き皆がのびと生活しているというような空気は微塵もなかった。
その日は嵐の翌日で、私たちにとっては年に数度とない自由時間。――老人しかいないこの村においてはこどもといえども労働からは逃げられない。学校が終われば漁でいたんだ網をつくろい、道にひろげた海藻を片づけるのはごくごく当然のことだった。
「おまえたちはこの村のさいごのこどもだから」と私たちを押しつけられていたばばは口癖のように言っていた。血のつながりはないにせよふたごのようにして育ってゆく私とりりが、四つうえの双子の男児とつがい子をなして、もう一度この村を、小学校の校舎の空虚を埋めるのだと、年よりたちは呪詛のように私たちを締め上げていた。
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