自由に旅行すること。花を育てること。動物を愛でること。そんな様子を描いた140字小説集を14篇収録しました。
以下、収録作品試し読み。
海が見たい。その気持ちだけで、仕事終わりに深夜発のフェリーへ乗り込んだのだから、あまりの行動力に我ながら笑ってしまう。湾じゃなくて、水平線が遙か遠くに霞むような、そんな海が見たかったのだ。
出港したばかりの海は、星をも呑み込む闇夜の色。朝陽が光る海原を想像して、そっと目を閉じた。
花の種をもらった。植物には詳しくないから、種を見ただけでは全く分からない。祖父は育て方を懇切丁寧に教えてくれたけれど、花の名前は教えてくれなかったから。
ようやく開花を迎えたときの祖父の満足そうな顔を、今でも覚えている。あの表情を忘れたくなくて、俺は今も花を植えるのかもしれない。
猫ほど完璧な存在はない、と、私は常々思う。
特に、唯一無二の宝石を宿したその瞳。陽の光によって輝きを変えるそれは、この世のなによりも美しい。いつまでも見ていられる。
猫の瞳に、私が映る。瞳の引力に逆らえないまま、額同士がぶつかった。ふいと目を逸らし、宝石の主はうるさそうに一言鳴いた。