こちらのアイテムは2026/6/21(日)開催・文学フリマ岩手11にて入手できます。
くわしくは文学フリマ岩手11公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

世界少年デー

  • D-31 (小説|短編・掌編・ショートショート)
  • せかいしょうねんでー
  • 梓野みかん
  • 書籍|新書判
  • 48ページ
  • 400円
  • 2026/6/21(日)発行
  • 【今回の新刊です!】

    わたしの世界で、わたしは少年である――


    ある日目にした、ローカルニュース。
    それは、ラピスラズリの原石が発見されたこと。
    呼び起こされる「アウイン」との記憶を辿り、
    原石が展示されているミュージアムへと
    「わたし」は車を走らせる――。



    「少年」というものについて、自分なりに書き留めておきたいなと思っていたところへ、国内初のラピスラズリ発見の報を聞き、まんまと飛びついてしまいました……。
    タイトルに「少年」と入っているのに、少年らしい少年は登場しませんので、何卒ご容赦いただければと思います。
    何かしら響くものがあれば作者として幸いに思います!



    〈 ↓ 冒頭部の試し読みはこちら ↓ 〉

     わたしの世界で、わたしは少年である――

    「どうした?」
     夫がネクタイを締めながら、わたしに聞いた。すぐにテレビのほうから目を離し、わたしは手にしていた泡だらけの茶わんを蛇口の下に戻した。
    「ううん、べつに」
     夫はわたしの返事をさほど気に留めずに、今日はちょっと遅くなるかも……打ち合わせが重なっててさ……などとブツブツ言いながら上着に袖を通し、バタバタと靴を履いて玄関のドアを開けた。いってらっしゃい、とわたしが首をのばして夫のほうへ言うと、いってきます、という低い声がアパートの階段を下りていく足音にまじって聞こえ、バタンと閉まったドアがその残響を遮った。
     テレビは先ほどのニュースを終えて、天気予報に変わっていた。
     洗い桶に浮かぶマグカップにくっついていた泡が、するりとすべって桶の水面に散っていく。ふいに強くさしこんだ朝の陽の光が、マグカップに描かれた青い小花模様に反射した。
     あれは、ほんの小さなローカルニュース。
     この県内で、ラピスラズリの原石が採掘されたこと。
     正直こんなニュースは、夫の職場でも、わたしのパート先でも、朝練のために早く出て行った娘の部室でも、きっと話題にならない。ラピスラズリは確かに青くてきれいな石だけれど、ダイヤやルビーほど高価なものではないし、日本国内での発見が今回初めてらしいけれど、町で号外が配布されるほど耳目を集める存在でもない。せいぜい、明日の朝刊にちょっとした記事が載るくらいだろう。
     それでも、そのニュースはわたしには十分すぎた。
     わたしのなかの、わたしの世界を呼び覚ますには。
     そして、わたしの世界でわたしが少年であることを思い出すには。
     かつてわたしとともに少年であった「アウイン」の名を、だれもいなくなった家のなかで、小さくつぶやいてしまうくらいに。


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