思春期の子どもが主人公の短編集です。
ー「まるよりも、もっと。まあるになりたいの」という小学生。
ー甘いソーダを飲ませてもらえない家の、女の子。
ー風で飛ぶあたしのTシャツ。一番最初に生まれたあたし。ついてない。
やわらかくて冷たくて、爽やかでぞっとする。
いつかの「あの頃」を綴った三編を収録。
「わたしはね。まあるになりたいの」
かき氷のシロップを選んでいたら、妹がつぶやいた。
妹はとっくにかき氷を食べ終わっていて、いまだ真っ白なかき氷の前でシロップを選ぶ俺を眺めている、ようだった。
俺の目線はブルーハワイの青とイチゴの赤の間を行ったり来たり、妹なんて見ていない。青と赤、交互に目線を走らせる途中に妹の残像があった気がしただけだ。
ランドセルを玄関に放り投げて、ミコの家に向かった。
ミコと別れてからまだ十分も経っていないはずなのに、ミコの汗はすっかり引いていた。
「うわ、葉月。汗やばいね」
「しょうがないじゃん。急いで来たんだもん」
ごしごしとハンカチで汗をぬぐった。
二階にあるミコの部屋に向かうと、階段を上ったとたん、むわっとした熱気に包まれる。
せっかくぬぐった汗がまた噴き出た。なんだよもう。これだから夏は嫌なんだよ。
夏生まれでも、夏は暑い。そりゃそうだ。人間だもの。
ミコの部屋は、キンキンに冷えていた。汗が一気に冷えて、気分爽快。
風が強く晴れた日は、家より先にお隣さんの家の庭をのぞく。
車を何台も停められるくらいに広い、砂利が敷かれた庭。
その一角に、わが家のタオルが二枚とあたしのTシャツが落ちていた。やっぱりね。予想通り。
お隣さんの家の門はずいぶん前に壊れてしまっていて、ずっと開いたままだ。
あたしが急に止まったものだから、ランドセルに付けた給食袋がぶらぶらと揺れる。
そのたびに、給食袋が門を出たり入ったり。
インターホンを鳴らしたけど誰も出てこない。
あたしは「おじゃまします」とつぶやいて、素早くわが家の洗濯物を拾いに入った。
タオルは乾いた砂利の上に、あたしのTシャツは抜かれた雑草の上に落ちていた。持ち上げるとあたしのTシャツだけ泥がついている。
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