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へづねぇどぎはふたりたび

  • へづねぇどぎはふたりたび
  • 良崎歓
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 116ページ
  • 500円
  • 2018/06/17(日)発行
  • 現代ファンタジー短編集。収録作は下記になります。

    ・へづねぇどぎは二人旅(書き下ろし):人外もの
    ・飛行少年:飛ぶ高校球児の学園恋愛もの
    ・花暦:花を操るDKの恋愛もの連作
    ・とおりあめ:夏の海と雨、高校生の恋の始まり

    初夏~夏に合った、爽やかな本を目指しました。
    表題作「へづねぇどぎは二人旅」は、秋田で妙な少年・ジローを拾い、山形の東根まで車で送り届ける話。
    秋田弁では「悲しいときは二人旅」となります。
    秋田と東根、あと表紙(仮)で分かる人は分かると思いますが、二つの街の同じ名前の社を巡るお話です。

    ↓以下抜粋です

    **********

    『山形方面 東根まで 乗せて』
     秋田駅からすぐの大きな通りで、学帽に学生服姿の男がスケッチブックを掲げていた。
     普段なら、ヒッチハイカーなんて気にもとめない。けれど、いまどき珍しい出で立ちが目立っていたことと、彼の目的地が自分と一致していたことで、私はつい足を止めていた。

    ◆◆◆

     久々の帰省だった。
     十年ぶりに歩いた駅前は、昔と変わらぬ風景と、再開発が進んだ地域とが入り交じっている。あったはずのものがなくなり、新たなものが建ち、人の流れが少し変わったように思えた。
     特に千秋(せんしゅう)公園の向かいの、なかいち、と呼ばれるあたり。昔はやや暗くて寂しい印象だったものが、明るく開けた街へと変貌を遂げていた。イベントの幟や真新しいオブジェは目にも鮮やかだ。行き交う人の数も記憶にあるよりも随分多い。
     そんなぴかぴかのオブジェ――マンガのように目が大きく、可愛い顔立ちのそれは、どうやら狐のようだ――らしきものの傍らに、彼はスケッチブックを持って立っていた。
     学生服はともかく、学帽なんてバンカラな高校でも応援団くらいしか着ないだろうに。増して、平日の昼下がり、学生なんて居るはずもない時間帯。明るい街に、ひとつだけの黒い姿はよく目立っていた。
     私が「ちょっといいですか」と声をかけると、彼は目深にかぶった学帽の下から目線をくれた。少年と青年のあわいに立つほどの年格好、色素の薄い髪と、涼しげな印象の切れ長の瞳が垣間見える。
    「どうぞ」
    「東根に行きたいんですよね」
    「んだ」
     見た目の若さに似合わぬネイティブな秋田弁が返ってきて、私は面食らう。それを悟られぬよう、続けて尋ねた。
    「私、東根に住んでて、これから帰るところで。車で三時間かかりますけど、それでもよければ、乗りますか」
    「さんじかん」
    「ええ、多分それくらいで着くかと」
    「そいだば、はえぇな!」
     少年は目を輝かせて笑う。そして、私に向かってぴょこんと頭を下げた。
    「頼む、乗せでけれ」


    (略)


     高速道路で行けるのは湯沢市の南、合併前は雄勝町と呼ばれていたあたりまでで、その先は線路に沿うように通る国道を行かねばならない。インターチェンジを降りるとすぐにコンビニがあって、私はいつものようにその駐車場へと入り込んだ。

    「ちょっと休憩してもいいかな」
     うなずくジローを確認し、私は車を降りて伸びをする。ここまで約一時間、行程は残り三分の二。このコンビニで休憩するのが帰省のときの恒例だった。
    「ジローも身体伸ばしたら? 東根まで、まだもう少しかかるよ。背中とか、痛くない?」
    「んだなぁ」
     いだぐはねぇけど、と言いながらも、助手席から降りたジロー。両手を組んで前にぎゅっと伸ばす仕草はまるで子犬のようで、私は思わず吹き出した。
    「なして笑ってら?」
    「年寄りっていう割に、可愛いポーズだなって思って」
    「放っとげ」
     少し不機嫌そうに言ってから、ジローは「こご、どの辺だ」と尋ねた。雄勝、といってもピンときていないような顔のジローに、私は車のドアポケットから道路地図を出してきた。
    「秋田駅がこの辺で、今ここ。東根はここ」
    「もうこんたどごまで来たのが」
    「車、あまり乗らない? 慣れてなさそうだね。じゃあ、電車を使うのかな」
    「いや、走る」
    「秋田から東根まで?」
    「んだ。おれ、昔は、秋田と山形をなんども行き来したもんだ」
    「走って?」
    「んだ」
     冗談かと思って笑ってはみたけれど、ジローはいたって真顔だった。

    (続く)

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