時間の証
- く-23〜24 (小説|ファンタジー・幻想文学)
- ときのあかし
- 野間みつね
- 書籍|A5
- 24ページ
- 100円
- 2025/1/5(日)発行
この品は、あのひとと過ごした時間の証。
約七百年前に滅亡した、古代ダランバース魔道王国。その僅かな生き残り達の子孫である古代人の娘サラ=ヴァジリキと共に暮らした“稀代の天才魔道士”セルリ・ファートラムは、後に、彼女から学んだ“失われた”付与魔術を駆使し、古代王国時代の最高傑作とされる魔剣“ペン・トーンの流星剣”をも凌ぐ、究極の魔剣を制作することになる……
長編ファンタジー『魔剣士サラフィンク』外伝シリーズの掌編・短編の内、かつて各種アンソロジー等に寄稿した作品の再録を中心とした小冊子です。再版予定はありません。
=== 以下抜粋 ===
コトリ、と机上に置かれた木工細工に、銀髪の青年魔道士は怪訝そうな目を向けた。
着彩はされていないが、七弁の花を模した彫り物。女性の掌に載る程度の大きさで、着衣の胸元に着ける飾りに出来そうな雰囲気だ。花弁の僅かな凹凸まで写し取ったような細かな彫り技、丁寧に磨き抜かれた表面、巧みな木目の見せ方からすると、腕の良いドワーフ職人の手に成るものだろうか。
「サラ=ヴァジリキ、これは……?」
「昨日、五日の工芸市で買ってきたの。試験材料にする為に」
サラ=ヴァジリキと呼ばれた黒髪の女性魔道士は、黒い瞳に不思議な微笑みの色を浮かべた。
「試験材料?」
目を上げた青年魔道士は、その色に戸惑った。
古代魔道王国人の末裔である彼女からは、今迄、様々な“失われた呪文”を授けられてきた。けれども、その際に彼女が瞳に浮かべていた穏やかな微笑みの色と、今自分が見ている微笑みの色は、何かが違う。
何が違うのか考えようとした時、彼女が静かに口を開いた。
「……あなたに付与魔術を操る素質があるかどうか、それを確かめる為の」
聞くや、青年魔道士セルリ・ファートラムは、疑念も吹き飛ぶ歓喜に心身を掴まれた。
付与魔術!
魔道の学徒となって以来、心密かに渇仰してきた、夢にまで見続けてきた魔道体系!!
物に魔力を付与する技で現代に伝わっているのは、一時的な強化魔力を纏わせる簡易な呪文のみだ。永続的な魔力を持たせる“魔力付与”等の技は、古代魔道王国の滅亡と共に失われている。
共に暮らすようになって半年以上――遂に彼女は、往時の“蛮族”の子孫でしかない自分セルリに、失われた“魔力付与”の技を授ける決心をしてくれたのか。
……興奮の余りに灰色の瞳を翠玉の彩りに染める青年魔道士を見ながら、女性魔道士サラ=ヴァジリキは内心に呟いた。
(この先へ進めば、もう、引き返せない)
───「試験」より
