【残部僅少】伝えぬままに【再版なし】
- く-23〜24 (小説|ファンタジー・幻想文学)
- つたえぬままに
- 野間みつね
- 書籍|A5
- 20ページ
- 100円
- 2024/1/7(日)発行
わたしには、あなただけが、この身と心を捧げても後悔しない相手。
約七百年前に滅亡した、古代ダランバース魔道王国。その僅かな生き残り達の子孫である古代人の娘サラ=ヴァジリキは、我が身に課せられた或る使命を果たすべく、一族の隠れ住む集落から、かつて古代王国を滅ぼした“蛮族”達の住む“外界”へと出てきた。そんな彼女が出会った“稀代の天才魔道士”セルリ・ファートラム青年――彼と暮らし始めた彼女が相手に“贈った”魔道媒体の指輪には、とある深い“意味”が潜んでいた。
長編ファンタジー『魔剣士サラフィンク』傍伝シリーズの小冊子です。
紙媒体が品切絶版で入手が至難なアンソロジー『Rings』(2015年刊行)、『みどり芽吹く』(2016年刊行)及び『はれる也』(2020年刊行)にそれぞれ寄稿した、「伝えぬままに」、「緑乙女の胸飾り」及び「小さな意趣返し」の3本を、微修正(※ルビの振り倒し等)の上で時系列に並べ替えて再録致しました。
なお、こちら、イベント「もじのイチ」の立ち上げ回参加に合わせて突発的に刊行した冊子です。
今後に出すつもりでいる傍伝シリーズ本で、この3本を一冊の中に全部入れた形で刊行する予定はございませんので、何卒、今回の貴重な機会をお見逃しなく(笑)。
=== 以下抜粋 ===
「古代の奇病じゃないか、って噂になってるの」
耳だけがキトゥン族の“猫耳”になっている小柄な女は、私が応接テーブルの上に置いた紅茶をひと口啜った後で、仔細ありげに声を潜め、愛らしい表情を曇らせた。
それは、ケルリ王国の都ニフティスに数多ある“冒険者の店”のひとつ“七色クジラ亭”を拠点にしている男女四人の冒険者パーティーを見舞った災難から始まった。
その中堅パーティーには男女ひとりずつの戦士と男性魔道士、そして財神ハーザの女性神官が居たのだが、男ふたりの方が、古代魔道王国時代の遺跡探索から戻ってきた翌日、腹部の腫れに襲われたのである。
暴飲暴食したというわけでもないし、出る物が出てこなくなったというわけでもない。勿論、怪我をしたわけでもない。普通に過ごす分には痛みも痒みもない。ただ、とにかく、広範囲に亙って腫れたとしか言いようのない色と膨れ方だったのだ。そして、彼らの腹部の“腫れ”は、翌日には、膨満と言って差し支えないほどの状態になった。
ところが、惨くもその様を笑っていた“七色クジラ亭”の他パーティーでも、一部の男性たちが、日を置かずして、腹部の腫れを発症した。“七色クジラ亭”の近隣にある他の冒険者の店でも、その様子を物見高く覗きに行ったパーティーの中の男性何人かが、謎の腹部膨満に取り憑かれた。
よもや伝染性の奇病ではないか、と慌てた彼らは店の二階に閉じ籠もり、それぞれに医者を呼んだものの、どの医者も皆「炎症ではなさそうだが、原因がわからない」と匙を投げた。また、冒険者仲間の神官たちが掛けてくれた“治癒”も、全く効き目を顕わさなかった。
───「小さな意趣返し」より
