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ディストーション 01st. Blackout/White doubt

  • い-17 (小説|ファンタジー・幻想文学)→配置図(eventmesh)
  • でぃすとーしょん ふぁーすと ぶらっくあうと ほわいとだうと
  • 高坂悠壱
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 286ページ
  • 1,200円
  • https://kakuyomu.jp/works/117…
  • 2019/2/17(日)発行
  • 例外なき物事など、決して何処にも存在しない。


    ※本作には、暴力・性的なものを仄めかす表現、合意でない性交渉を思わせる表現があります


    ▼あらすじ

    時は遠未来。 幾度の文明崩壊を経て、この世界は原子と二進数により構成されるようになった。
    但し、人間を除いて。

    何でも屋「沙田事務所」をマイペースに営む少女・沙田撃鉄。
    美しく快活なその少女は、元素と二進数によって体が構成されている「中立子」である。

    ある日、露口と名乗る少年が彼女のもとを訪れ、「復讐して欲しい」と撃鉄に依頼する。
    だがこの依頼、どうも一筋縄ではいかないようで――。


    ▼web版
    https://kakuyomu.jp/works/1177354054888945673  
    ※製本版は上記内容に加え、書き下ろしSS「bonus track」を収録。

    本編一部抜粋
     
      雨上がり、澄んだ赤橙が照らす夕刻に。

      「や、だっ……助けて、誰かッ!」

       寂れた仄暗い路地裏に、少女の悲痛な声が一つ。暮れの雑踏するメインストリートから少し入り込んだ場所であるにも関わらず、救いの言葉と共に駆けつける者も、その震えた声を拾う者も、誰一人としていなかった。唯々、換気扇の回る乾いた音と、少女の眼前に佇む男の荒い息とが、ビル壁に反響して「奇跡も魔法も、一縷の望みもない」と言わんばかりに彼女の鼓膜を振るわすばかり。

       獲物を前にした空腹の獣のように、熱に浮かされた狂人のように、じり、と出刃包丁片手に少女へと詰め寄る男。怯えで眼を潤ませ覚束ない足取りで後退する動作も、涙声の拒絶も、最早少女の一挙一動は状況を好転させるものであるどころか、更に男を興奮させるものでしかない。

      「っあ」

       とっ、と少女の背に何かが当たった。少女にとっては認めたくはない現実であろう、袋小路。愛らしい顔が一気に青ざめる。恐怖で脚に力が入らないのか、彼女は壁に背を預けた侭、ずるずるとその場に座り込んでしまった。

       少女の様子を舐め回すように見つつ、男は右の口角を上げる。その顔は、もう直ぐ己の欲望は満たされる、という歓喜で溢れていた。
       退路を断たれてしまった今、後は〝これまでの例〟の通り、少女はその心身を蹂躙され、残虐の限りを尽くして殺されるのだ。抵抗する術もなく、唯々無力な侭。  男はゆったりと本日の獲物たる少女の方へと近寄ってしゃがみ込み、彼女の胸ぐらを暴漢に似つかわしくない紳士的な仕草で掴んだ。そしてセーラー服の襟元に包丁の切っ先を掛け、切り裂き破ろうとした一刹那。

      「たす、けて」

       と、予想外に放たれた、絞り上げるような無垢の声に、その手が一瞬止まる。更に嗜虐心を煽られ、気分が高まったところで作業を再開しようとしたその時、再び男の手が止まった。
     否、波立つ空気の違和感に、想定外の事態に、手を止めざるを得なかった。 先程まで憔悴した顔をしていたのがまるで嘘だと言わんばかりに、少女が不敵に笑っていたのだ。

     形成逆転の奇跡など望めぬ死の淵に瀕し、何故笑みを浮かべていられるというのか。狂ったにしろ何にしろ、理解すること能わぬ不気味さに、男の顔を脂汗が伝う。
     状況に頭が追いつかず硬直していた男の鳩尾に、凄まじい衝撃が加わった。少女が容赦なく蹴りを叩き込んだのである。男が地べたに叩き付けられた隙を突いて彼女は逃げるでもなく、不躾な少年のように「はッ」と鼻で笑い、プリーツスカートに付いた土埃を払いながら立ち上がった。仰向けになって噎せ込み呻く男を見下ろし、彼女は口火を切る。

      「僕がさァ、『たすけて』とか本気で言ってるとでも、思った?」

       にやり、と。未だ幼さは残るとはいえど、血も凍るその美貌に肉食獣の笑みを浮かべ、

      「なあ、追い込む側から追い込まれる側になった気分はどうだ? なんなら僕が、このままアンタが殺してきた奴らと同じ目に遭わせてやっても良いんだぜ? でも、僕ぁ生憎性的な意味で人を襲う趣味は持ち合わせてないんでね。っつーことで、まあ――」

       滔々と捲し立てるように言って、少女は両手を眼前に掲げ、

      「――暫く寝てろや」

       次の瞬間にうっすらと開かれた男の瞳が捉えたのは、鈍器を振りかぶった少女の姿。腰に届かんばかりの濡れ羽色の黒髪が斜陽を受け、滑らかに流れ煌めくその光景は、鳩尾に走る激痛など麻痺してしまう程神々しく、自らが置かれた状況など忘れてしまう程美しく。
     己の視界が暗転しつつあることさえ知覚できぬ侭、男は意識を手放した。

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