【内容】
漫画「怪便所」「舞台」(忌木一郎)
小説「おりてきたもの」(久世空気)
「現代妖々新聞」
漫画感想「妖怪マッサージ」
映画感想「ミスミソウ」 その他
小説一部抜粋
じいさんが変わってしまった。
それはきっと山のせいだろうと皆言う。俺もそう思う。でもいったい何があったら人があんなにも変わってしまうのか。山で毒のあるものを食った、毒性のガスを吸った、犯罪に巻き込まれた……。どれもじいさんとは無縁そうな憶測だ。でも、そう、どんな憶測をしても、たとえ何が本当かわかっても、俺は今のじいさんを受け入れられないのだ。
じいさんは俺の父親の父親に当たる。父さんは末っ子で五人目の子供だ。全員結婚して所帯を持っていて、全員盆と正月にじいさんとばあさんのいる田舎に集まる。それがじいさんとばあさんの自慢だった。そしてそれを自慢に思う二人を、俺の両親も従兄弟たちの両親も、そして孫である俺たちも、みんな誇らしく思っていた。田舎は不便だし近所の人たちは野次馬で俺のお母さんのこととか、他のおばさんたちのことをねっとりとした口調で探ってくるけど、じいさんは「孫たちのため」とでかいワンボックスを買い全員まとめて送迎してくれるし、近所の人たちは「うちの嫁にちょっかい出すな」ときっぱりと抗議したりとても格好よかった。
「孫たち」は全部で八人。俺は末っ子の息子だが、一番年下は一つ下のアヤネだ。俺達は年が近いからよく二人で遊んだ。八人の孫が一緒に遊ぶのは双六やカルタをするときくらいで、泊まりに来たら大体年が近いもの同士で遊んでいた。じいさんは誰にもまんべんなく構ってくれた。俺とアヤネが折り紙をしていたら、パッと一枚折紙を取ってあっという間にカブトムシを織り上げたりする。それがアヤネのお気に入りの紫だったりすると、アヤネを泣かせてしまい、じいさんは大慌てでアヤネをあやすのだ。大人も俺達も「じいさんはホントにしょうがないなぁ」と笑う。
そんなことがあっても、アヤネもじいさんが好きだった。でもじいさんの山には入ろうとしなかった。家の裏にあるじいさん所有の山。時々伐採はするけど、ほとんど何もない山だ。俺達は虫取や茸狩りに誘われてよく山に入るけど、アヤネだけは頑なに入ろうとしなかった。
じいさんが「山に行くぞ」と俺達を誘うとアヤネはすぐにお仕入れに隠れてしまう。俺が迎えに行くと「山が怖い」と震える声で言うのだ。山の何が怖いのかはわからない。俺達は何度も入っているから、確かに危険なところはあるけど、怖いと思ったことはない。じいさんにそのことを話すと
「怖いと思うんだからアヤネには怖いものなんだろう」
と仕方ないというように呟いた。どういう意味かわからない。ひょっとしたらじいさんにはアヤネが何に怖がっているのか判っていたのかもしれない。だから無理に連れていこうとはしなかったのかもしれない。(続きは本誌で)