お仕えする姫君の結婚のため、天翔る羊さまの伝説が今に生きる平和なシェリープ王国へやって来た侍女のリーニを出迎えたのは、顔が怖くてぶっきらぼうな騎士、エレウス・メーレンベルクだった――夢見る十六歳の乙女による、お城での生活をつづった日記形式の恋愛ファンタジー。
※サイト公開中の「リーニの日記」を微調整して再録したものです。内容はほぼサイト収録のものと変わりません。番外編は未収録です。
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http://pluie.halfmoon.jp/novel/sheep/ 【本文サンプル】
今日は姫様のお輿入れの日でした。
でもでもでもね、王族の婚姻とは言っても、あーんな田舎の国から、こーんな田舎の国に嫁いできちゃいました~って感じなわけだから、ぜいたくもきんきらきんも豪華絢爛も全くなしなんです。馬車一台で乗り付けてお供なんて私一人。何という孤独、何という寂寞。
このくそ忙しい時にまったく男手がないなんて! つーか廊下のそこここに突っ立ってる騎士様は何なのよ! お前らは置物か! スタチューか! 招き猫か!
なあんて内心毒づいていたら、一人の騎士様が進み出て、数人の騎士に指示を出しながら、姫様の衣装箱をぜんぶ運んでくださいました。
なんてお優しい騎士様! ……と感動していたら「不要なものを持ってくるから苦労することになるのだ」とか、低~いお声でぼそっとおっしゃるものですから、わたくしもう怒り心頭です。
そりゃまあ確かに身一つで良いですよみたいな話にはなっておりましたよ。嫁入り道具は先に運ばれてましたから。でもいざ出て行く直前ってなると、やっぱりいろいろ持っていきたいものって出てくるじゃありませんか! わたくしたち女の子ですのよ!
わからんか、わからんのかこの気持ちが! お前には乙女心ってものがないのか!
……なさそうでした。ごめん私が悪かった。
前からだとお顔がとっても怖かったので、背後からこっそり拝んでおきました。
一応お礼も申し上げておきます。
ありがとう騎士様。名前も知らないけど。
ついでに顔も覚えてないけど(だって怖かったから一瞬しか見なかったんだもん)。