年間パスポートを窓口で提示し、中へと入る。いつかよりもずっと広くて蒼い空が、緑色の槍に突き刺されたように見えた。私は土を踏みしめながら、適当な場所を探し回る。私が描きたいと思うものがこの中にあるような気がするから、あせって段差で躓いた。鞄と一緒に抱えたスケッチブックを握る手に力がこもって、汗ばんだ熱が少し紙を曲げた。それだけ時間がたった後、私は家の前の芝生に座り込み、筆箱から鉛筆を取り出して写生を始めた。遠くに電波塔がそびえ、私を見下ろしていた。
ようやく場所を、あるべき場所を見つけたような気分になった。堪らなく嬉しい思いがこみ上げて、紙の上を撫でる鉛筆が、私の動かしているものとは思えないほど撥ねた。
嬉しいから、私の思考に黒いカビのような物が浮かんだ。地下室の倉庫なんかにある、どうしてもできてしまう類のカビ。それが少しずつ私の頭の中に広がっていくと、まるでありもしない風景が流れ込み始める。私の中に入るその表象が、どこまでも私を落としていく。
気分を盛り上げてくれる曲が、イヤホンを通して耳に流れ込む。My Bloody Valentineの「Loveless」。ねじ切れそうなギターノイズが気持ち悪くて、私の見ている風景はもっともっと歪んでいく。エフェクターに繋ぎすぎてしまったギターは、私の脳味噌を壊してしまうようだった。
フィードバックノイズが唸りをあげる。