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【文フリ福岡初売】二十三夜の月 −ミディアミルド物語 14−

  • I-59〜60 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • にじゅうさんやのつき
  • 野間みつね
  • 書籍|A5
  • 132ページ
  • 500円
  • https://mitsune.jp/Epub/bibi/…
  • 2026/7/25(土)発行

  • 自由になるがいい、ケーデル・フェグラム。私という鉄《てっ》鎖《さ》を砕き棄《す》てて。


     レーナ暦カタリ六年、マーナ暦ガラ八年、穏やかに明けた新年から一転、早春第四月《だいよんげつ》に、マーナの重要都市であるスクラがレーナ軍に攻め落とされる。急ぎスクラ奪還に乗り出そうとするマーナであったが、レーナ将兵の移動状況を分析したマーナのケーデル・フェグラムは、レーナのセラディン・ペルテアの移動先を掴んだことで、その真の目的地を見抜く――

     野間みつねが高校生の頃から手掛けている、いわば“準ライフワーク”的な、架空世界の歴史物、第14巻。

    ※注釈※ ジャナドゥ;諜報活動などを行う忍びの者。初出では屡々“影”にルビを振る。“王の影”を意味する“ジャナドゥリン”という言葉に由来する名詞であることからもわかるように、本来は、王と王族にのみ仕える忍びの者。

     === 以下抜粋 ===

    「……それはまた随分と、あの将軍らしからぬ……」
     憤然と戻ってくるが早いか上官が捲《まく》し立ててきたケーデル・フェグラムの言動を聞いて、タリー・ロファは眉を顰めた。
    「人を虚仮《こけ》にするにも程があるぞ、あの青二才めが! えい糞、本当に出ていってやろうかッ!!」
    「……それは駄目ですよ、隊長。我々は近衛兵、陛下の御下命でケーデル将軍の指揮下に入っている身であることをお忘れなく」
     取り敢えず窘《たしな》めておいて、タリーは考え込む。先程の臨時の軍議でも、事情が変わったので撤兵すると繰り返し続けたケーデル。普段の、可能な範囲でではあるが言葉を尽くして諸将に作戦を理解・納得させようと心を砕くケーデルとは明らかに異なる態度だった。だから、ノブリー・カッセル・ハラージュ四等将官のように、ケーデルの副官としての従軍経験が豊富な者ほどひどく困惑し、あの場ではケーデルに対して強く抗議出来なかったのだ。
    (俺もそうだったけど。……だけど、そこまで“普段の”ケーデル将軍を知らないノーマン先輩は、理不尽さにすぐに憤って説明を求め捲って、軍議の後で直ちに押し掛けまでして……)
     そして、あっさり“暴言”で追い払われた。タリーからすれば「有り得ない」としか言いようがない。兎《と》角《かく》不仲が噂されるノーマンとケーデルだが、ケーデルの側がノーマンに対して悪意を持っているわけではないことは、タリーの目には明らかである。つまり、ケーデルには、ノーマンを面と向かって“罵倒”する理由が、今のところはない筈なのだ。
    (……もし“らしくない”振舞に至った理由があるなら、今回の“らしくない”撤兵命令と根が同じなのでは……だとすると……)
    「おいタリー、何を不景気な面《つら》で考えてんだっ。お前だって奴の理不尽な撤兵命令に不満はあるんだろうがっ!」
    「……ないとは言いませんが、それ以前に、理由次第で納得出来る筈という気がしてならないんですよ」
    「はあ? 理由? それをあの青二才が『いずれ』とか吐《ぬ》かして説明しないから――」
    「私が言う“理由”は、撤兵の、ではなく、将軍が何故あのような態度を殊更に執るのか、という理由です。……将帥として有り得ない振舞をすることで、何を得ようとしているのか……」
     そこまでタリーが呟いた時、天幕の外が俄《にわか》に騒がしくなった。
    「不審者が居るぞ!」
    「あっちにも逃げました――」
    「追えっ!」
     護衛の三等近衛や近衛見習らが叫ぶ声と、慌ただしい足音。
    「失礼致します、不審者が複数名、この天幕の周囲に近付きました為、排除の――」
     天幕入口を警護していた三等近衛が一歩入って報告しかけたところで、不意に硬直して崩れ落ちる。それを目にした瞬間、タリーもノーマンも殆ど反射的に長剣《リラン》を抜いて身構えた。……が、天幕の入口から音もなく滑り込んできた黒装束は「非礼をお詫びします」と軽く一礼し、そのまま入口近くに片膝を落とした。声は低めに抑えられているものの、まだ年若い少年のような体付きである。
    「こちらの方は一時的に失神させただけです。半刻《じかん》もすれば意識を取り戻します。――ノーマン近衛隊長閣下へ、我が主ケーデル・フェグラムからの取り急ぎの言伝をお持ちしました」
    「――ケーデルだと!?」
    「隊長、お静かに」
     タリーが素早く窘める。
    「まずは先方の話を聞くべきです。……と言うか、やっぱりね、という心境ですよ、私は」
    「はあ?」
    「余りに将軍の態度が不自然過ぎたんですよ、あの方の普段の戦場での言行を知っている私の目から見て。……済まない、話の腰を折ってしまって。私が一緒に聞いていて差し支えないなら、その言伝を聞かせてください」
    「はい、構いません。ケーデル様からは、タリー副長閣下にも併せて御説明せよとの御指示を予め受けております。――我が主は現在、起きて活動している間の言動を、天幕外《そと》に貼り付いているレーナのジャナドゥの耳に収集されております。その為、先程のような無礼な言葉を隊長閣下に向けて敢えて口にする必要があったのです」
    「――適当な言い訳をするな」
     ノーマンが大股で相手に歩み寄り、その眼前にリランの切っ先を突き付ける。……タリーは制止し損ねたが、それは、上官の動きに相手への害意が感じ取れなかったせいであった。とは言え、物の弾みというのも往々にしてあることだ。自分のリランを鞘に納めたタリーは、遅れ馳せながら、いざという時に上官の腕の動きを阻止出来る位置まで歩を進めた。
    「失礼ながら」
     小柄なジャナドゥは、毫《ごう》も怯んだ様子なく顔を上げ、ノーマンの目を直視する。……タリー同様、恐らくノーマンから害意を感じておらず、軽い脅しに過ぎぬと見切っているに違いない。
    「隊長閣下がそのようにお疑いになる理由は」

         ───「黒の部隊《ディーリー・ナーナ》、奔《はし》る」より

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