当サークルで「断片的資料集」として刊行した短篇集『挿文綴』シリーズより2篇+THE HANDS付属文への加筆修正1編+書き下ろし2篇の計5篇からなる創作民話集。
「異界の民話」をテーマに、遥か昔、遠い国のどこかであった、誰も知らない云い伝えを綴りました。
『挿文綴』シリーズ同様、長編連作『星めぐり常世草子(頒布終了)』と世界観を共有しておりますが、単独でもじゅうぶんお楽しみいただける内容となっております。
創作民話集第一作『御しるし嫁子』同様、今回も変わり表紙を採用します。
閉じ紐を掛ける留め具パーツの色はランダムになります。
その時あるものの中からぜひお好きな色をお選びください。
以下収録編のご紹介です。
・風天縁起
※『挿文綴 散文拾』より
天の王は風の天を見立てんと、北風、南風、東風、西風の四つの風を呼び寄せられ、四つのうち最も多く知識を得、また貪欲に知識を求めし風に天としての姿を与へやう、と仰られました。
・鬼の嫁入り
※『挿文綴 散文拾』より
あるとき舞ひの巧みなる羅刹女の舞踊が帝天王の御前で披露されました。帝天王はこの舞ひにいたく心付き、是非我が天界の王宮へ迎へやうと仰られました。
・善なるもの
※THE HANDS「宝鐸手」付属文に加筆
彼は天のひとり子でありながら、生まれつき左の腕がなかった。天の雲は形よく彩られ、花は花弁の一枚も欠けることなく開き、鳥はつややかな嘴で一つの狂いもない音律を奏でる。天にあるものには、わずかな歪みもない。欠けたるもののないこの世界で、欠けているのは彼だけだった。
・根界樹
※書き下ろし
根界樹は、天界の辺境、常世と現世との境界域に成立する。下界へと降る雲海の下層に根を垂らし、根先が天界から離れる個体ほど巨大化する。表層に見える樹体は時間、季節、天候を問わずほとんど変化を示さないが、底層に広がる根系の内では絶えず業の沈降と再配分が行われている。
・さかさの国
※書き下ろし
黄昏時のことであった。私はひとり娘の不要物を浜で焼いていた。その時、水平線に朱く沈みゆく日の中に、頼りなさげな足取りでふらふらとこちらに向かってくる人影が映った。
「どちらへ行かれるのです」
私が尋ねると、老人は食いつくように答えた。
「『さかさの国』です。道標は、地から逆さに生えた、大きな木の根なのです。その根を伝って地の底へ底へと潜ると、この世の全てが逆さになった国に辿り着けるんです。」