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【見本誌提出】小説BADOMA 血塗られた伝説 2/5

  • I-59〜60 (小説|ファンタジー・幻想文学)
  • しょうせつばどま ちぬられたでんせつ ごぶんのに
  • 野間みつね
  • 書籍|A5
  • 116ページ
  • 450円
  • https://mitsune.jp/Epub/bibi/…
  • 2015/5/5(火)発行
  • 表紙・人物紹介画 高井玖実子(タカイクミコ)

    吾輩《わがはい》は、さる御方《おんかた》に誓ったのだ。
    難儀し困窮しておる者たちをこそ護り、助けると──


     真の勇者の称号“ヴィルシャナ”を目指して“しるし”を集める旅を続けるシフォロン達は、エルザイム王国の都ロクポリスに到着する。
     町は、王妃懐妊を祝う祭の真っ最中。吟遊詩人であるシフォロンは、宿泊した宿の女主人から、滞在中に階下の小料理屋で歌ってほしいと頼まれるが、仲間である黒魔道師タンジェには、ひとつの懸念があった……。

     1990年に株式会社アスキー(当時)から発売されたMSXコンピュータRPGコンストラクションツール「Dante」に収録されていたサンプルゲーム『BADOMA 血塗られた伝説』のノベライズ作品、全5巻予定の第2巻。
     元ゲームを御存じない方でも、普通に“何か「剣と魔法」のファンタジーっぽい”作品として読むことが可能。

     全巻完結しました。
     続刊情報等は、こちらの概要アイテムを御参照ください。

     === 以下抜粋 ===

     つい先程の戦闘で、シフォロンは左腕に軽い傷を受けた。大したものではない。放《ほう》っておいても二、三日で治る程度の刀傷だ。本人もそう思い、周囲もそう見て、然《さ》したる注意も払わなかった。
     だが、今、仰向けに横たわる彼の顔色は土気色で、目は虚ろだ。息も荒く、その呼気は熱い。彼の体に異変が生じているのは、明らかであった。
    「多分、野盗の剣に、毒か何かが塗られていたんじゃないかと」
     と、メルカナートが言う。素人目にも、他に考えられなかった。傷から悪い風が入ったにしては、症状が出るのが早過ぎる。
    「薬草じゃ治らないのか?」
     アクラの問い掛けに、メルカナートは端整な顔を曇らせた。
    「僕は医者じゃないから、この症状がどんな毒によって引き起こされるものなのか、正確にはわかりません……ですから、どんな薬草を使えば毒を消せるかも……下手に見当違いの薬草を使うと、却って症状を進行させてしまうこともあります。……何《いず》れにせよ、アロマの葉じゃどうにも……」
    「そんな!」
     アクラの声は、悲鳴に近かった。
    「それじゃ、シフォロンは──シフォロンは!?」
    「落ち着くんだ、アクラ」
    「これが落ち着いていられるか!」
    「徒《いたずら》に騒いでも、彼が快復するわけではないだろう」
    「ログナー!!」
     アクラはギョッとしたような顔で、ログナーを睨み付けた。
    「黙って見てろって言うのか! そんな冷たいことを言うのか!!」
    「落ち着けば、いい考えも出る。そうやってうろたえ騒いでいては、浮かぶ良案も浮かばないと言っているのだ」
    「そんなこと──そんな悠長なこと言って、もしその間にシフォロンに何かあったら、何にもならないよ!!」
     アクラはシフォロンを見た。彼らがあれこれ言っている間に、シフォロンの状態は目に見えて悪化していた。そうやって見ている内にも、刻々と悪くなってゆくのが見て取れる。息がどんどん浅くなり、目がいよいよ焦点を失ってくる。最早意識もないらしく、アクラの呼び掛けにも答が返ってこなくなった。
    「シフォロン──シフォロン!!」
     それでもアクラは呼び続けた。喚き出したくなるくらいだった。目の前が昏《くら》く冷たくなるような心地が襲い掛かる。耐えられず、彼は体をがばと起こし、仲間たちを必死の目で見回した。
    「助けて──誰か助けてよ──シフォロンが──シフォロンが──!!」
     覚えず口走った時、彼の目は、ひとりの仲間の目と出会った。少し離れた木の幹に背を預けて蹲っていた、タンジェだった。無表情だった目が、アクラのどんな言葉よりも雄弁なまなざしを受け、たじろいだように揺らぐ。タンジェは、その目を伏せ、閉ざした。それは、自分にはどうすることも出来ないという意思表明として、仲間たちの目には映った。……彼がマントの下で右手を躊躇《ためら》わせたことに気付いた者は、居なかった。
    「どうしようも……ないのか……?」
     誰も、何も出来ないのだ。そう思った時、アクラの中で何かが音を立てて切れた。彼はよろよろと地面に手を突き、シフォロンの、焚火のせいでどす黒くさえ見える顔を覗き込んだ。
    (シフォロン……行ってしまうのか? マリアさんの……所へ……行って……?)
    「どけ」
     いきなり、低い声が、ぼんやりとそんなことを思っていた耳を叩いた。アクラはビクッと肩を震わせた。死神が死すべき人を攫いに来たのかと、一瞬、魂の底まで凍て付いた。
    「そこを、どけ」
     再度の声と共に、誰かが彼の肩を押した。押されて、彼はよろめいた。よろめきながら、彼は、誰が自分を押しのけたのかをその目で確かめようとした。
    「……!」
     いつの間に寄ってきたのか、それは、タンジェだった。
     タンジェは、マントの前を合わせたままで両膝を地面に突き、シフォロンをじっと前屈みに見つめた。ゆっくりと目を細め、息を整えようとするかのように、肩を何度も上下させる。つい今し方に大きな技を使った直後だけに、なかなか思うように集中出来ないのかもしれない。仲間たちには随分と長い時間が掛かったように感じられたその呼吸の整調が終わると、彼の唇が微かに動き始めた。
     森の中でもわかるほどに、空が白み始めている。
     アクラが、そして他の仲間たちが縋《すが》るような熱い視線を向ける中、半ば目を閉ざしたタンジェの唇は低く言葉を紡ぎ続けていた。耳を澄ませば、それが数語から構成された同じフレーズの繰り返しであることがわかったであろう。どんな印を結んでいるかは、マントの下なので見えない。少しずつ呟きの声量が上がり、呪文の断片が耳に触れるようになる。
    「……AR……TARM……EUTOR……」
     つうっ──と、こめかみから頤《おとがい》へ、汗が流れてゆく。いつしか、タンジェの全身から青い揺らめきが立ち上っている。その揺らめきは、彼が完全に目を閉ざすと、シフォロンの体にも及んだ。
     それを目で追った仲間たちは、ハッと身を乗り出した。シフォロンの顔に、生気が戻ってこようとしていた。見る見る死の影が駆逐され、呼吸が穏やかなものに変わる。程経ずして、その目が開かれる。菫色の瞳が、確かな意識の光を湛えて、覗き込むアクラの黒い瞳を見上げた。
    「……これで毒は消えた筈だ」
     妙に溜め息めいた声が告げる。アクラは顔を上げ、声の主タンジェを見つめた。掛ける声が震えた。
    「タンジェ……あ、有難う……」
    「……暫く休む。当分、魔道は……使えない。そのつもりでいろ」
     低く呟いて、彼は後退《あとずさ》った。
     どうなることかと息を詰めていた仲間たちは、緊張から解放され、一様にホッとした顔を見合わせると、お互いに笑みを交わした。
    「……ん、もぅ! 何よぉ! 〝解毒〟の呪文使えるんだったら、勿体付けてないで最初っからさっさと使っちゃえばいいのに!」
     ロココ・リナはそう言うと、冗談半分に、後ろに退いてきたタンジェを肘で軽く突いた。──タンジェがよろける。何よ大袈裟ね、と言いかけた時、森の中にその日最初の輝きが流れ込んできた。その生まれ立ての光が、地面に呆気なく右手を突いた魔道師の姿を、ふと彼女の目に晒した。

         ───「第五章 イースタースの森」より

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