大反響を呼んだ(気がする)「自炊学I+A」「自炊学II+B」出版から一年以上が経過し……神聖自炊帝国宛に届いた感想は、どれも素晴らしいものだった。曰く、「本棚に置いておくのが苦痛で仕方ない」「ゴミ箱に放り込む労力さえも惜しい」「トイレに流してしまいたい」「どうして買ってしまったのだろう」云々、云々。
これらの指摘を受け、我々はとある結論に辿り着いた。
そう、これからの自炊学シリーズは「本棚のスペースを占拠せず」「簡単に捨てられて」「トイレに流せる」ものでなくてはならない。そうすればきっと「買ってよかった」「こんなの買ったっけ」と思ってもらえるものになるはずである。
それらの要望をすべて満たす、新たな自炊学とは――そう、答えはひとつしかない。
小さくすればよいのだ。
これなら本棚に置いても場所を取らない。簡単に捨てられる。トイレにも流せる。これですべて解決だ。
やはり、人類は余分にものを持ちすぎているのだ。不要なものに塗れた現代を、我々はいかにして生きるべきなのだろうか。身の回りに様々な物質や情報が溢れすぎて、押し流されるように生きてはいないだろうか。自分自身が見えなくなってはいないだろうか。
大量生産・大量消費の時代は終わった。これからは本当に必要なものだけを選び抜き、必要最小限のものだけを持って生活していくべきではないか。そう、断捨離だ。レッツこんまりだ。
エジンバラに住む断捨離の達人ダン(32)とシャーリー(31)を訪ねた我々は、その驚異的な暮らしぶりを目の当たりにした。
もはや家さえもなかった。彼らは大きな樹の下で雨風を凌ぎ、雨水や樹液を啜り、木の根を食んで生活していた。そこには何もなかった。けれど充実していた。「なにもない」という快い環境に優しく包まれて、彼らはとても幸せそうに見えた。
「みんなモノを持ちすぎているんだ」ダンは草を噛みながら我々のインタビューに答えてくれた。
「実際のところ、生きるためにどうしても必要なものなんてほとんどありはしない。その気になればね」
シャーリーは頷いた。
「私たちは何も持たない。何かを持ったとしても、片手だけ。もう片方の手はいつでも空けておくの。そうするとね、とっても素敵なものを掴めるのよ」
「そう、幸せってやつをね」
二人は笑いあって微笑んだ。私は目頭が熱くなるのを感じた。なんという、なんという自由!
「ああ、待ってくれ。一つだけ捨ててはいけないものがあった」
ダンは樹の虚から「自炊学I+A」と「自炊学II+B」を取り出した。
「この自炊学シリーズだけは絶対に捨ててはいけない。どんなにミニマルな暮らしをしようともね」
「これがないと生きていけないわ」
「そうそう、今度の文フリで自炊学III+Cが再版されるんだって? 僕らのぶんも買ってきてくれよ」
我々はダンとシャーリーに礼を述べ、その場を後にした。
我々はもう迷わなかった。自分のなすべきことがはっきりと見えていた。家に帰ったらいらないものを全部捨てて、ミニマルな生活を始めよう。そして自炊学シリーズを全部十冊ずつ買おう。
シンプルに生きよう。
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