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みちのくの君5 前九年合戦〜安倍貞任〜

  • みちのくのきみ5 ぜんくねんかっせん あべのさだとう
  • ひなたまり
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 172ページ
  • 600円
  • 2018/6/17(日)発行

  • 「俺とともに死ぬのは、誰だ!?」

     清原の裏切りにより、北へと追い詰められる安倍一族。滅びの時が近づくなか、義家は貞任を救おうと試みる。
     平安後期・東北を舞台にした、愛と慟哭の歴史ファンタジー長編・完結!!





     永訣の章


      1 高星


     江刺の夏は、暑い。
     水無月が終わろうとしている。強い日差しが大地にじりじりと照りつけ、木々からは蝉の鳴き声が賑やかに響き渡る。凍てつくような冬の寒さが、いまは夢のようだ。
     この地を治める藤原経清の館は、江刺の高台にたつ。貞任は物見櫓の上からじっと、江刺に広がる水田を見つめていた。
     今年の夏は暑く、日の光を浴びて稲の葉は青々と力強く茂っている。稲の茎は太く、しっかりと地に根付いている。ここ数年、長雨のため不作に見舞われてきた奥六郡であったが、きっと今年は豊作だろう。水田からは命の輝きが満ちあふれている。
     貞任は胸元の勾玉を握りしめた。いくら貞任が神巫の力で嵐を言い当てたとしても、長雨を止めることはできない。金の力で米をまかなえても、国衙領から官物を奪っても、それは一時しのぎに過ぎない。奥六郡の豊かな実りこそが、安倍一族を支えるのだ。神巫の力が増すほど、貞任は己の無力さを痛感するようになった。
     貞任は櫓から経清の館を見回した。館の北対からは、女たちの機織りの音と賑やかな歌が響く。異母妹の結は汗だくになって、かめの中の絹糸を藍で染めている。父・頼時の法要が来月に執り行われるから、みな必死に法服を仕立てているのだ。
     寝殿の庭先では、千世が安寿に弓を教えている。七歳の安寿でも引けるように、千世が小さな弓をこしらえたのだ。安寿の放った矢がポトンと的の手前に落ちると、安寿は弓を置いて嫌々と頭を振った。
    「安寿。あきらめるんじゃない、次!」
     千世が再び弓を持たせ、安寿の腕を支えた。何度も外れたあと、矢はようやく的の端にあたった。
    「やった!」
     安寿が千世を見上げ、にっこりと笑った。
     櫓の手すりに頬杖をつきながら、貞任は千世と安寿を眺めた。弓の稽古をする二人の姿はよく似ていて、実の兄弟といってもいいほどだ。
    (俺と違って、千世は面倒見がいいな。こういうところは梓に似たんだろうな)
     館の外から馬の嘶きが聞こえ、貞任は門の方角に目をやった。数人の家臣を従え、経清が館に戻ってきたようだ。
    「経清、待ちくたびれたぜ!」
     貞任は櫓の梯子を勢いよく下りると、寝殿の庭に入る経清に声をかけた。経清は貞任に気づくと、手の甲で顔の汗を拭い、目を細めた。


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