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花酔い—視界樹物語外伝—

  • Eホール(1F) | D-08 (小説|SF)
  • はなよいしかいじゅものがたりがいでん
  • 磯崎愛
  • 書籍|A5
  • 0円
  • http://karakusaginga.blog76.f…
  • 2013/4/28(日)発行
  • 唐草銀河vol.6

    (異世界SFファンタジー・短編 24頁 コピー本)※おかげさまで完売いたしました! 

    『花酔い――視界樹物語外伝――』

     ちかごろ都じゃ御百度参りが流行ってる。なんでも、鳥門(とりもん)のしたに耳飾りを埋めて百度を踏むと、どんな願い事でもかなうという。
     おれ と同じ城勤めの厩番はもちろん、近衛兵のあいだでも噂になってるようだから大した効き目があるそうだ。うそかほんとか知らないが、御上臈がひっそり城を抜 け出して願をかけたなんてはなしも耳にした。いやそれはさすがに無理だろうと笑い飛ばしてはみたものの、ついせんに、おさななじみの織枝(おりえ)も百度 を踏んだときいたときには目をむいた。御上臈とちがって町娘の織枝なら、百度踏めないことはない。
     織枝はおれたち七人のおさなさじみのうちじゃ親分格で、求婚者があとを絶たない都一の織物商のむすめだ。願掛けなんて頼る女じゃないと思っていたが、わからないものだ。 
     いっつもつるんでた仲間たちも、おれをはじめ四人が耳飾りをつけて成人してからは、そう頻繁に会えなくなった。おとなになるってのはそういうものだ。それぞれに居場所もかわった。この都を離れて地方に赴任したやつもいる。結婚して母親になった女も。
     みんなそうして、それぞれの暮らしをもつようになるのだろう。花見だ川遊びだと集まるのも、もうないことかもしれない。
     ふと、ウテナのことを思い出した。
     あいつは無事に成人できるんだろうか。耳飾りにするための夢石がないのに。あれがなきゃ、結婚だってできやしない。
     おれが心配することじゃない。そうも思う。あいつは本来の居場所に戻ったんだから。
     そうは思うが気が晴れない。
     気が晴れない理由はまだあった。
     今日はたまたま非番で織枝に呼び出された。あいつに会うのはひとつきぶりだった。なのに、いきなり泣かれた。あんな気の強い女に泣かれると弱る。しかも、まるで春売りのように大きな耳飾りをしていた。
     織枝の夢石はただでさえ血のように赤い。その赤くてぎざぎざしたのを黄金と真珠で派手に飾り立てていて、あいつの婀娜っぽい顔立ちにそれは似合わなくはないんだが、おれはどうも好かなかった。
    もう片方の赤いかたまりが瑪瑙か珊瑚か知らないが、後見人が用意してくれた耳飾りを埋めるってのは、どんなもんかと思う。片耳しか耳飾りをつけてないっつうのも半端に子供返りしたみたいで気色悪い。
      誰かに話せば願いは叶わないそうで、織枝はなにを願ったかは言わなかった。けど、あいつはおれの耳に目をやって、葉(よう)はウテナとのことを願うの、と 聞いてきた。そのことばに癇が立ち、織枝を押しのけるようにして背を向けた。すると、いくら想ったって身分が違うから無理よ、と織枝の甲高い声がおってき た。
     そんなことは、百も承知だ。
     ウテナと会ったときから知っている。
     知っているさ、誰よりも。だから心配してるんじゃないか。
     ちっとも役には立たないが。
     おれはたぶん、あいつになんにもしてやれなかったことが悔しいのだ。苦しくて仕方がないのだ。
     ずっとそばにいたのに……守れなかった。
     だが、まあ、そのせいであいつは本来の居場所へもどったのだ。戻ることが許されたともいえる。おれはそう思い直して天を見あげた。
      今日は天上にまします樹(いつき)の帝のご機嫌がひときわ麗しいらしく、見あげる空は瑠璃色に輝いていた。天を支える視界樹の、その青金の枝葉がこんなふ うにきらめいて見える日は、何かいいことがあるものだ。気を変えて、うわさの鳥門を見てこようとお社へ詣でることにした。
     いまの時季は桜がちょうどその盛りで、御殿から見おろすと、お社はうす淡い紅色に埋もれるようだった。おれは桜にいい思い出はないせいか、花見で浮かれるほうじゃない。酔客も嫌いで酒もやらないが、それでもやはり花を見たいひとの気持ちはわかる。
     脇参道から桜並木を行きかうひとを眺め、橋を渡って境内にはいる。日が好いらしく、あちこちの親木の根元に家族連れがあつまっている。
     成人して耳飾りにする夢石を七歳まで守ってくれる親木は、いってみればもうひとりの親みたいなもんで、捨て子のおれも、その樹のそばにいるとさびしくはなかった。
    おさななじみ七人は、この境内の最奥にある欅(けやき)の巨木を親木にもったのが縁で、何かとつるんで遊ぶようになった。
     

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